ラジウム温泉は放射線ホルミシスだった
玉川温泉(秋田県)
秋田県の田沢湖から八幡平山頂に至る途中にある玉川温泉は、
「がんが治る温泉」として一躍有名になった温泉です。
がんを中心にした難病患者が次々と押しかけ、宿泊予約が取れるのは半年先と
いわれるくらい混み合っています。
その秘密はラドンにあります。
源泉の「大噴き(おおぶき)」は毎分1万リットルという日本一の湧出量を誇りますが、
ラジウム鉱石の岩盤を通ったお湯はラドンを豊富に含み、入湯や吸入、飲水によってラドンを
体内に取り込むことができます。
体内に入ったラドンは細胞に働きかけてホルミシス効果を生むのです。
岩盤浴はこの玉川温泉が発祥の地です。患者は温泉の地熱を帯びた岩盤に横たわり、
温熱効果によるデトックス(毒出し)を行います。
このときラドンを吸い込むことによってホルミシス効果を得ているのです。
多くのがん患者は河原のテントの中に入って、充満するラドンガスを吸い込んでいます。
ラドンは質量が重く下にこもるので、みな横になってラドンを吸っています。
また玉川温泉では国の特別天然記念物に指定されている「北投石」が有名です。
三朝温泉(鳥取県)
玉川温泉とともに、ラジウム温泉として有名なのが鳥取県の三朝温泉です。
三朝温泉は、ウラン鉱石の採取地として有名だった人形峠にほど近いところにあり、
ウラン鉱脈を通って噴き出たお湯の中にラドンが高濃度で含まれていると
考えられています。
泉質は無色透明、ラドン濃度の2000ベクレル(Bq/㎥、岡山大学による実験数値)は
日本のラジウム温泉のなかでも、相当高い部類に入ります。
この泉質に注目した岡山大学は、この地でラドンとがん死亡率の有名な
調査をおこなっています。
また、岡山大学はこの地にラドンを利用した「三朝医療センター」を作り、
研究と同時に治療も行って、病気回復の成果をあげています。
放射線ホルミシスとは
がん生存率を高める低線量放射線
―極めて低い三朝温泉の住民のがん死亡率―
さまざまな研究により結果が証明されたラッキー論文に刺激を受けた
日本の服部禎男博士を中心とする研究者たちは、専門家による研究委員会を立ち上げ、
各地の国立大学医学部などを先頭に、10年以上にわたって低線量放射線の人体に
及ぼす影響の研究や動物実験を行っています。
たとえば、わが国屈指のラドン温泉として名高い鳥取県の三朝温泉は、
ウラン鉱山で知られる人形峠の地下水が湧き出したものといわれており、
高濃度のラドンを含む放射能泉です。
屋外で観測されるラドン濃度も26ベクレル/㎥と、周辺地域の11ベクレル/㎥と比べて
かなり高濃度です
がん死亡率を37年間にわたって調べた結果、全国平均を1とした三朝温泉の
住民のがん死亡率は男性で0.54、女性で0.46と、周辺地域の住民のがん死亡率
男性0.85、女性0.77に比べても低かったというデータが得られました。
とくにラドンによって引き起こされるといわれていた肺がんですが、
その死亡率にいたっては、男性0.48、女性0.19と、周辺地域の
男性0.93、女性0.37に比べてきわめて低いことが明らかになったのです。
また、東北大学医学部の坂本澄彦教授は、悪性リンパ腫患者に、
従来の臨床対応に加えて、0.1グレイ(100ミリシーベルト)の低線量放射線を
全身または上半身照射(1日おきに15回、計1.5グレイ)する併用医療を行いました。
23人の患者の追跡調査によると、結果は、従来だけの対応の治療後10年の
生存率が50%にくらべ、低線量放射線を併用した場合の10年生存率は84%に
達しました。
さらに、ヘルパーT細胞などの免疫系の活性化も確認され、低線量放射線を浴びた
患者の方ががん生存率が高いことが確認されたのです。
ラドン浴とホルミシス効果
ラジウム温泉の正体はラドン
―ラドンを利用した温泉療法―
ラジウム温泉の中身はラドンである
ウランは科学的に不安定で高エネルギーな物質ですが、壊変といって、
時間とともにエネルギーを放出しながらさまざまな物質に変化していき、
最終的には安定した鉛になります。
ウランがエネルギーを放出しながら崩壊していく過程でラジウムやポロニウム、
ビスマス、鉛などが出現しますが、キュリー夫人が発見した(ポロニウムもキュリー夫人が
発見)ラジウムは、一度は誰もが耳にしたことのある名前だと思います。
そのラジウムが壊変した物質が、ここで取り上げる「ラドン」です。
ラドンは無色無臭で不活性な気体です。
ウランは通常地殻の深くに存在する物質ですが、マグマとともに地上近くにまで
押し上げられ、ゆっくり固まることでウランを結晶として含有する花崗岩がつくられます。
その花崗岩が風化すると、ウランは単独で放出されて地下水に溶け、堆積します。
こうして地下にウランを多く含む層ができます。
そのウランが壊変する過程でラドンが発生します。
通常、ラドンは地下に堆積していて地表には現れにくいのですが、
地下水の湧出などにより温泉として地上に出てくるのです。
湧出する際、高濃度のラドンを含む地層を通ったお湯は、
ラドンを高濃度で含む温泉水になります。
ある一定量以上ラドン量を含む温泉を法律では「放射能泉」と定義していますが、
これがいわゆるラジウム温泉です。その実態は「ラドン」なのです。
ラドン浴の医学的応用
ラドン浴といえば、古い坑道を利用したオーストリアのバドガシュタインが有名ですが、
わが国では岡山大学が、ラジウム温泉として有名な鳥取県の三朝温泉に
「岡山大学三朝医療センター」を開設して、実際に患者治療に放射能泉を利用しています。
対象疾患としては、呼吸器系疾患、関節リウマチ、神経痛、消化器疾患、高血圧、
動脈硬化、糖尿病、老人性疾患などです。
入院患者も受け入れていますが、外来患者の数は1日平均100人以上にも達します。
三朝医療センターでは、ラジウム温泉水を利用してさまざまな温泉療法を施していますが、
代表的な温泉療法として6つの療法を行っています。
① 入浴療法
② 温泉プール療法
③ 鉱泥温布療法
④ 吸入療法
⑤ 飲泉療法
⑥ 熱気浴療法
この中で、広い意味でラドンに期待して行われているのが④以下の吸入療法、
⑤飲泉療法、⑥熱気浴療法です。
岡山大学三朝医療センターには、高濃度のラドンを利用した「ラドン高濃度熱気浴室」
という施設があります。
この施設の中のラドン濃度は約2000ベクレル(Bq/㎥)、温度は42℃、湿度は90%です。
治療の目安となる1クールとして、1日1回40分、1日おきに3~4週間、
合計が9回~12回のラドン浴を行っています。
ラドン浴の内容・回数とも、あのバドガシュタインのハイルシュトレーンの治療と
よく似ています。
適応症のほとんどは「活性酸素病」に対してのもので、ホルミシス療法による
活性酸素抑制効果に期待していることがわかります。
ラドンの生理作用
① ラドンは不活性な気体なので、体のどの部分とも化学反応を起こしません。肺から90%、
皮膚から10%の割合で体の中に入り、血流とともに全身に運ばれます。
② ラドンは油によく溶ける脂溶性をもっているので、内分泌や神経線維になど
脂肪が多い組織に集まりやすい性質があります(局所麻酔薬なども脂肪との親和性を
よくして神経線維に浸透しやすくしています)。
③ 半減期は3・8日なので、体に入ってもすぐに出てしまいます。
体に取り入れたラドンの50%は30分で消え、2時間でほとんどが排出されてしまいます。
しかしこの短い間に全身を回り、細胞に刺激を与えます。
④ ラドンはアルファ(α)線を放射します。
α波とはヘリウムの原子核で、Y線 β線と比べて非常に高いエネルギーを持っています。
浸透力は紙も通さないほど低いのですが、細胞に直接大きなエネルギーを放射して
強い刺激を与えます。したがって組織や細胞の強い生体反応が期待できます。
ラドン浴とホルミシス効果
日本及び世界のラジウム温泉
―低レベルの放射線は有益―
ホルミシスのメッカ、バドガシュタイン
放射線ホルミシス療法が臨床現場で注目されるようになったのは、ここ4、5年のことです。
しかしこの療法は、はるか昔から世界各地で行われていました。
オーストリア・バドガシュタインのハイルシュトレーン(治療用坑道)は、
銀鉱山の廃坑を利用したラドン浴療法です。
坑道内のラドン含有量は4万400ベクレル(Bq/㎥)、温度38~42度、
湿度は70~100%にも達します。その治療効果はインスブルック大学と
ザルツブルグ大学の共同研究でも証明され、医療保険も適応されています。
適応所としては、ベヒテレフ病(強直性脊椎炎)慢性多発性関節炎(慢性関節リウマチ)、
関節症、乾性関節炎、脊髄症候群、繊維筋痛症、骨粗鬆症、神経痛、末梢神経障害、
スポーツによる怪我の治療、サルコドーシスなどの運動器官系障害、慢性気管支炎、
気管支喘息、慢性副鼻腔炎、花粉症などの呼吸器系疾患、尋常性乾 、神経皮膚炎、
硬化症など多岐にわたります。
オーストリアはもとより欧州各地から患者が押しかけ、放射線ホルミシス治療の
メッカとなっています。
日本の代表的なラジウム温泉
わが国でも、ラジウム温泉によるホルミシス療法が行われてきました。
温泉法では、1キログラム中のラドンの含有量が100億分の20キューリー単位以上、
あるいは1キログラム中のラジウム塩の含有量が1億分の1ミリグラム以上を放射能泉の
基準としています。
日本の代表的なラジウム温泉には玉川温泉(秋田)、三朝温泉(鳥取)、増富温泉(山梨)、
奈女沢温泉(群馬)、湯の島温泉(岐阜)、栃尾又温泉(新潟)、関金温泉(鳥取)、
栗本温泉(岐阜)などがあります。
そして、これらのラジウム温泉の中でも最も有名な温泉が秋田県仙北市にある
玉川温泉です。
玉川温泉
温泉湧出量日本一を誇る玉川温泉は、特別天然記念物の北投石から発するラドンによる
治療効果で古くから湯治場として知られてきた名湯です。
その効用としては、リウマチ、高低血圧、高脂血症、動脈硬化、脊髄性、
脳性小児麻痺、貧血症、白血球減少症、肝機能、皮膚病などの改善、
免疫力や高筋力増強、疲労回復、若返り効果などが挙げられ、
湯治客の足が途絶えることがありません。
とりわけ、玉川温泉を訪れるがん患者をルポした毎日新聞の記事により、
全国的に有名になりました。
この玉川温泉に代表されるラジウム温泉で、放射線ホルミシス効果を持つ
ラドン222を効果的に体内に取り入れるいくつかの方法があります。
まず第一は「浴湯」です。
玉川温泉では、ぬる湯、あつ湯、寝湯、かけ湯、打たせ湯などでラドンを含んだ温泉水
浴びることができます。
しかし、実際にはラドンは皮膚を通して吸入することは少ないので、浴湯の中でラジウムが
気化してこもっているラドン222の蒸気を吸入することでラドンを体内に取り入れます。
また、玉川温泉では温泉内の岩場で「岩盤浴」を行うことができます。
温泉の地熱を帯びた岩盤に寝転ぶことで温熱効果と同時にラドン222の吸入を行います。
玉川温泉では、がん患者がテントの中に入ってラドンガスを吸入している姿を見ますが、
これは理にかなっているといえます。
この吸引と同様に、効果的にラドンを体内に吸収できる方法が「飲泉」です。
玉川温泉の飲泉コーナーでは、備え付けのコップでラドンを含んだ温泉水を飲むことで、
ラドンを消化器を通じて直接体内に取り込むことができます。
飲泉は慢性消化器疾患、慢性気管支炎などの消化器性疾患、呼吸器系疾患に
効果が大きいといわれます。
三朝温泉
玉川温泉とともに、世界有数の濃度を持つラドン温泉として有名なのが
鳥取県三朝町の三朝温泉です。
景勝として知られる三徳山の見下ろす山間にある同温泉の泉水は、
ウラン鉱山で知られる人形峠の地下水が湧き出したもので、世界屈指といわれる
高濃度ラジウムによる効能は古くから知られています。
三朝温泉の良質は無色透明、ラドン含有量は46.4マッヘ(過去に702マッヘという
記録も)。
効能としてはリウマチ性疾患、痛風、高血圧症、糖尿病、消化管疾患、動脈硬化症、喘息
アトピー、術後のリハビリなどが挙げられます。